ディズニー、画像生成AIを自社開発

eyecatch

 

 2025年11月14日、米Disney社は、同社の映像配信サービス「Disney+」において、ユーザーの顔・声と既存のディズニーキャラクターを使用して、生成AIで静止画・動画を作成できる新機能「Disney+ Create」を実装すると発表。これは「子どもがディズニープリンセスジェダイになれる」というような状況を想定している。

 

www.hollywoodreporter.com

 

 ディズニー社はこれまで一貫して生成AIに否定的な立場を取ってきた。2023年にUniversalと共同で画像生成AI「Midjourney」の開発元を著作権侵害で提訴し、2025年6月にはそこにWarner Bros.も加わった。結果として、ディズニーは反AIにとって「正義の味方」のようなポジションとなり、この世界に無断学習罪を誕生させる最大の希望として期待を集めていた。

 

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https://x.com/ikariharahara/status/1933031408110612663

 

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https://x.com/innocence_SAC/status/1932952343034855768

 

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https://x.com/sobiura/status/1933088751296946208

 

 しかし結局のところ、ディズニーは「自社IPが他社によって学習・出力される」という状況が許せなかっただけであり、生成AIに否定的ではないのはもちろん、「みんな被害者、みんなで助かろう」の無断学習罪にも全く興味が無かったわけである。Disney+ Createがどのような生成AIであるにせよ、基盤技術が一切何も無断学習せずに作られた物とは到底考えられない。反AIはそれを一生「問題だ」と言い続けるだろうが、ディズニーは「問題ない」と考えている。

絵師因習村と声優、明暗分かれる


 2025年11月14日、日本俳優連合(日俳連)が、データセット管理システム「J-VOX-PRO」の設立を発表。

 

www.nippairen.com

 

 J-VOX-PROは「日俳連が運営する公式データセットライブラリ」で、データセット本体のほか、声を声優個人に結びつける声紋情報等が格納される。「企業は日俳連にライセンス料を支払う事で、特定声優の声そのままのAI音声を、その声優の名前を表に出して使用することができる」という事になっている(実際に使用されるかはともかくとして)。

 

 J-VOX-PROは法ではないので、これが完成しても無断学習罪やAI使用罪が誕生するわけではない。しかし、日俳連の目的はそもそも「無断学習を禁止すること」ではなく「声優の声そのままの学習モデルを誰かが勝手に作って公開するのを防ぐこと」なので、それで狙い通りである。「その声が実際のところ誰の声なのか」を客観的に格納したこのデータベースは、声優本人や所属事務所が著作隣接権不正競争防止法を用いる上で、有効な武器になり得る。

 

 日俳連は最近立て続けに大きな動きを見せており、絵師因習村と声優の明暗は、かなり大きな物になりつつある。

 

 絵師因習村および反AIは、「無断学習罪」という存在しない罪で他者を罰する事に拘泥し、約3年間AIを使用する個人や企業に対して散発的に誹謗中傷や私的制裁を繰り返すだけで、それ以外ほとんど何もして来なかった。「被害があろうが無かろうが、最終生成物が類似していようがいまいが、学習された者は全員等しく被害者である」とする「無断学習罪」は、自称被害者の数を増やす上では有効な思想だったと言えるが、その代償として方向性や争点が全く整理されなくなり、各人がロクに資料も読まずに思い思いの素人法解釈を述べ続けるだけの地獄になってしまった。

 

 無限に被害者を増やして収拾が付かなくなった絵師因習村とは対照的に、日俳連は「NOMORE無断生成AI」キャンペーン開始時に無断学習罪から脱却し、争点を「生成」に絞った。争点を狭い範囲に絞る事で、前述の通り「声優の声そのままの学習モデルを誰かが勝手に作って公開するのを防ぐこと」に注力したわけである。その結果、一見派手に戦っているように見える絵師因習村が何の成果も挙げられない一方で、日俳連は先日にじボイスから類似ボイスを取り下げさせる事に成功し、今回はJ-VOX-PROという実効性のあるデータセット格納システムの開発に至っている。

 

note.com

 

news.yahoo.co.jp

 

 この3年の差は、もはや取り返しがつかないかもしれない。

OpenAI、歌詞に関する著作権裁判で敗訴

 

 2025年11月11日、米OpenAIと独GEMA(ドイツ著作権管理団体)の間で争われていた無断学習罪関連の裁判において、ドイツ・ミュンヘン地方裁判所が「被害を訴えている9曲に関して、賠償金を支払うべき」とするGEMAの主張を支持し、OpenAIが敗訴。賠償金の額は不明。

 

The regional court in Munich found that the company trained its AI on protected content from nine German songs, including Groenemeyer's hits 'Maenner' and 'Bochum'.Presiding judge Elke Schwager ordered OpenAI to pay damages for the use of copyrighted material, without disclosing a figure.

https://www.reuters.com/world/german-court-sides-with-plaintiff-copyright-case-against-openai-2025-11-11/

 

 ただし、無断学習そのものが罪だと言っているのではなく、「使用者が出そうと思えば歌詞をそのまま出せる」という結果から遡って「ライセンス料を支払え」と言っている。「無断学習という行為自体が犯罪なので、被害があろうが無かろうが全員被害者」という、いわゆる反AI的な「無断学習罪」はそもそも話題になっていない。

 

OpenAI had argued that its language models did not store or copy specific training data but, rather, reflected what they had learned based on the entire training data set."However, the court found that both the memorisation in the language models and the reproduction of the song lyrics in the chatbot's outputs constitute infringements of copyright exploitation rights.

https://www.reuters.com/world/german-court-sides-with-plaintiff-copyright-case-against-openai-2025-11-11/

 

 歌詞は文字列かつ全長が非常に短いので比較が容易であり、「元作品がそのまま出るかどうか」という判定が楽だったのではないかと考えられる。これが長文、画像、音楽等になると、学習元と全く同じものをAIに出力させる事は不可能なので、同じパターンで勝っていく事は難しいかもしれない。

 

 また、この判決はChatGPT 4/4oに対してのものであり、最新バージョンであるChatGPT 5に関しては扱いが不明となっている。

コミケ、反AIに焼かれる(3年目)

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 2025年11月8日、反AIが誕生してから6回目のコミケとなるコミケ107において、東館の工事により通常より大幅にスペースが少ない影響で、落選者が続出。

 

 この状況に反AIが「手描き絵師が落選しているのはAI絵師を当選させているせいだ」として便乗。

 

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https://x.com/god_nankotsu/status/1987130201260868007

 

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https://x.com/artagongulgul/status/1987015728931954770

 

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https://x.com/innocence_SAC/status/1987144023627403518

 

 同じ事が3年繰り返されているので、これ自体は新しい話ではない。根本的にはコミケがAIを排除して絵師因習村に忠誠心を示さない事が、反AIに攻撃される要因になっている。

 

 反AIとしては「コミケは自分たちの味方」であり、「権威ある存在にAIを否定して欲しい」と考えている。しかし、コミケ側は必ずしもそうは思っていない。これはコミケの理念が「違法でない限り全ての表現を受け入れる」であり、法以外の基準で何かを恣意的に排除する事を是としていないからだと言われている。

 

 実際のところ「違法ではないが気に入らないので排除して欲しい」は表現規制派の主張そのものなので、これを認めると「あれも排除しろ」「これも排除しろ」で収拾がつかなくなる事は目に見えている。

 

 

 コミケを「教育」する事が困難であるため、「AI生成物は表現ではない」「創作ではない」といったような事にしたり、「AI生成は違法なので『違法でない限り全ての表現を受け入れる』の条件に当てはまらない」といったような事にする攻撃パターンもみられたが、文化庁が繰り返し述べている通り、法に反しているかどうかは最終生成物の内容で決まり、「AIを使用したかどうか」では決まらないので、シンプルにデマである。

 

 AI使用罪が存在しないからこそ反と反反の戦いが3年以上も続いているのであり、生成AIの使用が本当に違法なら、この戦いはとっくに終わっている。

 

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https://x.com/sei_FP21st_True/status/1987380045552476579

 

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https://x.com/wwwwprivate/status/1987373590120108398

Getty Images社、無断学習裁判で敗訴

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 2025年11月4日、ロンドン高等法院で、2023年から続いていた米Getty Images社と英Stability AI社の知財裁判が、実質的にGetty Images社の敗訴で終了。

 

Getty Images largely lost its London lawsuit against artificial intelligence company Stability AI over its image generator on Tuesday.

https://www.reuters.com/sustainability/boards-policy-regulation/getty-images-largely-loses-landmark-uk-lawsuit-over-ai-image-generator-2025-11-04/

 

 なぜ「実質敗訴」なのかというと、Getty Images社はいわゆる「無断学習罪」で戦っていたが、結局その争点で勝てず、「商標権侵害のみ限定的に認められる」という、ほぼ成果のない状態で裁判が終了してしまったため。記事によっては「商標権裁判で勝訴」と書いているケースもあるが、無理矢理勝ったという事にするならそう書くしかないというだけで、そこで勝っても意味はない。

 

Getty had succeeded "in part" on trademark infringement... but her findings were "both historic and extremely limited in scope"

https://www.reuters.com/sustainability/boards-policy-regulation/getty-images-largely-loses-landmark-uk-lawsuit-over-ai-image-generator-2025-11-04/

 

 先日のAnthropic社に対する複数の作家の集団訴訟においても、作家側は無断学習罪で戦おうとしたが、勝てず、「海賊版の学習」という別の争点でどうにか和解に持ち込んだ。今回もGetty Images社は本丸の無断学習罪では勝てず、商標権侵害という別の争点でかろうじて完敗を免れている。

 

note.com

 

 無断学習罪は反AIの根幹を為す概念だが、今のところ何の成果も挙げられていない。それでも約3年に渡り「戦っていないので負けていない」という状態が続いていたが、生成AI黎明期(2022~2023年ごろ)に開始された裁判が順次終了し始めたせいで、今回のような実質的敗訴が目立ってきている。

 

 本件で特に重要なのは、裁判所が学習モデル内に元作品の複製は存在しないと断言している点である。もちろん技術的に言えば元々存在しないと言うしかないのだが、反AIにとって学習=複製は一種の信仰のようなものであり、学習モデル内には学習元データがそのまま保存されているという事になっている。その世界観に基づいて生成AI黎明期から「泥棒」とか「盗人」といったような誹謗中傷を繰り返してきたわけだが、本裁判ではシンプルに「複製ではない」と断言されている。

 

She also dismissed Getty's secondary copyright infringement claim, on the grounds that "Stable Diffusion... does not store or reproduce any copyright works"

https://www.reuters.com/sustainability/boards-policy-regulation/getty-images-largely-loses-landmark-uk-lawsuit-over-ai-image-generator-2025-11-04/

 

 「無断学習罪」という概念が実質的な敗訴を繰り返しているのは、結局のところ学習された段階では被害が発生していないからだと考えられる。マリオを学習されても、それだけでは任天堂に被害は発生しない。誰かがマリオの画像を生成し、「マリオがそのまま出た」などと言ってネットに公開したとき、そこで初めて被害が発生し、その「誰か」が加害者になる。文化庁も3年前からずっとそう言っている。しかしGetty Images社はそのようには考えず、あくまでも学習という行為そのものに問題があるとして、無断学習罪で戦おうとした。そのため「学習=複製ではない」「学習モデル内に複製は存在しない」と判断された時点で打つ手がなくなり、詰んでしまった。これが「生成によって被害が発生する」という主張ならまだ戦いようがあったわけで、やはり無断学習罪一本で戦う事は、相当に厳しいと言わざるを得ない。

日本漫画家協会、2年前と同じ事を繰り返す

 2025年10月31日、公益社団法人日本漫画家協会が、出版社各社と連名で、「生成AI時代の創作と権利のあり方に関する共同声明」を発表。

 

nihonmangakakyokai.or.jp

 

 内容は、学習段階と生成段階を区別せず、AIによる無断学習の全面的禁止を求める、原始的な「無断学習罪」そのもの。現状、イラストレータVTuber界隈では、「画像生成AIだけは絶対に許さないが、機械翻訳やLLMは便利なので普通に使う」という一貫性のないダブルスタンダードが主流だが、日本漫画家協会の主張は一貫しており、あらゆる無断学習の一律禁止を求めている。よってこれらの出版社においては、機械翻訳やLLMは一切使用できないし、AIを用いてコーディングされたシステムも導入できない(そうしないとダブルスタンダードになる)。

 

 こういった「無断学習罪を作らねばならない」という決意表明的なものは、特に目新しいものではない。生成AIの流行り始め、今から約2年以上前(2023年8月頃)に、一度流行っている。もちろんただの決意表明なので、現実世界への影響はなかった。

 

www.pressnet.or.jp

 

 先日のAnthropic訴訟の結果(無断学習罪では勝てず、「海賊版を学習した」という別の争点を用いて和解に持ち込んだ)を見ても分かる通り、無断学習罪一本で戦う事は、年々厳しくなってきている。

 

note.com

 

 似たような立場である声優業界が、いち早く無断学習罪から「脱却」し、生成にフォーカスして既に色々な動きを見せているのに比べ、イラスト業界は2025年にもなって2年以上前にやった決意表明の焼き直しをしているわけで、やっている事のレベルにかなり差がある。

 

https://www.ntt-west.co.jp/news/2510/251027b.html

natalie.mu

静岡県沼津市公認ご当地VTuber西浦めめ、公式アカウントで反AI思想を開陳

 2025年9月9日、「静岡県沼津市公認ご当地Vtuber」という肩書を持つVTuber「西浦めめ」が、公式アカウントで反AI思想を開陳。沼津市も生成AIで看板・チラシを作っているお店が増えてきたが、それらは『クリエイターを軽視するお店』とみなして距離を置く」と、市公認VTuberでありながらAI使用罪に基づく店の選別を宣言した。

 

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https://x.com/chimohama/status/1965241790455591054

 

 しかし、反AIなのは「西浦めめ」だけで、沼津市は反AIではない。むしろ「市政に活用する」と宣言している。

 

city.numazu.shizuoka.jp

 

 この点を指摘されると、「西浦めめ」は「自分が問題視しているのは画像生成AIだけで、それ以外のAIは別にいい、便利なので普通に使う」と、堂々とダブルスタンダードを宣言。

 

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https://x.com/chimohama/status/1965471135371591979

 

 「画像生成AIにだけ反対して、他のAIは平然と使う」というパターンは、例えばホロライブ等の著名なVTuberも同様なので、それ自体は珍しいものではないのだが、「画像は権利関係がよく分からないので」等の意味不明な言い訳を添えるのが通例であり、全く恥じる事なくここまで堂々とダブルスタンダードを展開する例は多くはない。

 

 ITMediaの取材に対し、沼津市は「西浦めめが勝手に言っている事であって、市の見解ではない」「市は西浦めめの思想を推奨しないし、肯定もしない」と返答している。

 

news.yahoo.co.jp