Adobe社、ベクター画像版Fireflyをリリース

 2023/10/10、Adobe社がFireflyをアップデート。

 

 最大の目玉は「Adobe Firefly Vector Model」と銘打ったAdobe Illustrator向けのベクター画像生成機能。既存の画像生成AIはどれもビットマップ画像しか出力できず、 幾何学的な図形や拡大に弱く、微調整も面倒くさいことが問題の一つになっていたが、ベクターデータで出力する事でその問題の大部分が解決する

 PhotoshopのGenerative Fillは質はともかく発想自体は既存技術の範囲を出るものではなかったが、これは類似技術が存在しない画期的な新機能となる。ベータ版だが既に利用可能。

 

 その他、「Generative Match」というControlNetで言うReferenceっぽい機能も実装されている。

 

https://helpx.adobe.com/firefly/using/whats-new/2024.html

Getty Images社、AI事業参入を発表

 2023/9/25、Getty Images社が画像生成AI事業への参入を発表。システムを組んだのはnVidiaAdobe Firefly等と同様、生成結果のクリーンさと学習元への還元を謳っている。

 

 これまで被害者として先行者に訴訟を起こす立場だったGetty Images社が、独自のシステムを構築して画像生成AI事業に参入する。パラダイムシフトとして象徴的。

 

 夢見がちな反AI主義者とは異なり、企業は徹底したリアリストである。

 

https://www.gettyimages.co.jp/ai/%E7%94%9F%E6%88%90/%E8%A9%B3%E7%B4%B0

WGA(全米脚本家組合)のストライキ、148日で終了

Strike captain SAGAFTRA member Cari Ciotti  looks on as striking WGA  members picket with striking SAGAFTRA members...

 2023/9/27、WGA(全米脚本家組合)とAMPTP(全米映画テレビ制作者協会)の交渉が妥結し、ストライキが148日目にして終結

 本命である12.5%の報酬アップは置いておくとして、AIに関する条項についての注意点(デマが発生しやすいと思われる箇所)は下記。

 

「無断学習禁止」という条項は存在しない

 

 既存の脚本を無断で機械学習する事は今後も禁止されない。ただし「された側が裁判を起こす権利を留保する」と言っている。つまり「裁判を起こす権利すら奪うような契約だけは禁止」という事である。

 学習は許容する一方で「AIが生成した脚本で作品を作るのは禁止」となっているのは一見矛盾しているが、「現時点での採用は禁止するが研究は禁止しない」という事で、要するに問題を先送りしたとみられる。

 

「AI製であることを公表しなくてはならない」という条項は存在しない

 

 「脚本家に渡す資料の中にAI素材があるならそれを必ず通告する」事を求めている。視聴者やそれ以外の第三者、あるいは世界に対して何かを公表しなくてはならないとは言っていない。

 

脚本家が自発的にAIアシストを受ける事は禁止していない

 

 先鋭化した反AI主義者のように「少しでもAIが関わったら汚染物」というような思想は持っていない。脚本家が自分の意志でAIアシストを受ける事は制限されないし、使ったからといってそれを公表しなくてはならないという事もない。

 

これは法律ではない

 

 これらの条項は法律ではないので、WGA所属の脚本家とAMPTP所属の組織が契約する場合のみ影響を及ぼす。それ以外の状況においては効果がない。

 

 なお、終了したのはWGA(全米脚本家組合)のストライキだけで、SAG-AFTRA(全米映画俳優組合)のストライキはまだ続いている。

 

https://variety.com/2023/tv/news/writers-strike-over-wga-votes-end-work-stoppage-1235735512/

81プロデュース、何もせず規制だけ求める

 2023/9/26、声優事務所の81プロデュース賢プロダクションが、「〜に歌わせてみた」系の音声生成AI動画に関して読売新聞の取材を受け、揃って「規制が必要」とコメント。

 

 まず前提として、「学習しても酷似させない」という選択肢はある。色々な選択肢がある中で、この生成者が酷似させようとしたから酷似したのである。これはどの生成AIでも変わらない。

 

 「生成過程には口を出さないが、最終生成物に違法性があれば普通に違法」というのが現行法の枠組みであり、犯罪があると思うなら個別に警告なり告訴なりすればいい話なのだが、それをせず、横着して「技術全体を禁止すべき」と言ってしまう。しかも、画像生成AIでよく見られるような学習段階でのエア被害ではなく、最終生成物が実際に酷似しているにも関わらず、である。

 「対処しようがない」と言う前に、そもそもやるべき事をやっていないのでは…

 

https://news.yahoo.co.jp/articles/1819ff91f1639628536f2b86561e92f7d138e137

Adobe Firefly、正式リリース

Adobe Firefly」でできることは? 他社のIPを侵害しないシステムとは? ベータ版の“わかっていること”をチェック - ケータイ Watch

 2023/9/13、Adobe Fireflyが正式リリース。商用利用も可となった。サービスとして動作しており、使用は無制限ではなく、1回いくらの従量課金制。特定のクライアントに依存しておらず、もちろんPhotoshopでも動くが、それ以外でも動く。

 

 画像生成AI自体は既に珍しいものではなくなったが、違法性がなくても常に反AIリスクがつきまとう現状において、業界最大手のAdobe社が堂々と画像生成AIをリリースし、商業利用を許可したという事実は大きい。

 学習元であるAdobe Stockはオプトイン形式なので、いわゆる「無断学習」ではない。権利者には既に報酬も支払われたため、「搾取されている」と主張する事も難しい。従来のような純然たる被害者ポジションを取る事が難しくなっている。

 

 かつてClip Studio PaintがStable Diffusionを内蔵しようとして反AI主義者に潰されたとき、「Clip Studio Paintを使っている=AIを使っていると思われると困る」という声があったが、Fireflyの正式リリースにより、Adobe Photoshopが全く同じ立場になった。今後手描き絵とAI絵の境界はさらに曖昧になり、現状のような単純な判定法ではどうにもならない作品が増えていくと考えられる。

米国著作権局、人力とAIが混在した作品をリジェクト

「Théâtre D’opéra Spatial」《画像出典:米国著作権局審査委員会の2023年9月5日付け決定書》

 2023/9/5、米国著作権局が、Jason M. AllenがMidjourneyと手描きを併用して作った絵画作品「Theatre D'opera Spatial」の登録をリジェクト。この絵は、AIが関与している事を伏せたうえで8月に開催されたコロラド州のファインアート・コンテストに出展され、優勝した事で話題となっていた。

 

 まず、アメリカは「著作権局に作品を登録しないと著作権が発生しない」という日本とは全く異なるシステムを採用している。逆に言うと「何に著作権を与え、何に与えないか」を著作権局が勝手に決める事ができる。

 

 AI生成と人力が混在した作品に対する米国著作権局と日本の文化庁の見解は以前からバラバラで、日本の文化庁は「人間の創作的寄与があればAI生成物でも著作権を認める」と言っているが、米国著作権局は「人力で作った部分には認めるが、AIが作った部分には認めない」と言っていた。

 

 今回米国著作権局は、Jason M. Allenに対して「どの部分が人力でどの部分がAI生成なのか、報告書を作って提出しろ」と言い、その説明が不十分なのでリジェクトした、としている。しかしこの絵はAI生成部分と手描き部分が完全に一体化していて元々分離できない。結果として現在の米国著作権局のシステムは「完全に手製」と「完全にAI製」の2パターンにしか対応できない事が判明した。

 前述の通り、これは「著作権局が登録を拒否した」だけなので、裁判は行われていない。従ってこの判断が合法か非合法かは現在も不明。

 

 なお、反AI主義者は以前より「AI生成物には一切の著作権が発生しない」というデマを流しているが、これは文化庁の見解とも米国著作権局の見解とも異なる。

Kindle Direct Publishing、AI/非AI判定で独自ルールを定義

 

 2023/9/7、Amazonが、同社の電子書籍サービスの1つKindle Direct Publishing(KDP)において、登録作品のAI使用の有無の申告を義務化。

 「登録者が自分でフラグを立てる」という仕様で、既にPixiv等が行っているものと同じだが、「どこまでAIを使ったらAI生成扱いになるのか」という基準が全く違う。原文は以下。

 

Kindle

 AI生成コンテンツとは、AIベースのツールによって作成されるテキスト、画像、または翻訳として定義されます。AIベースのツールを使用して実際のコンテンツ(テキスト、画像、または翻訳)を作成した場合、後で大幅な編集を行ったとしても、そのコンテンツは「AI生成」と見なされます。

 

■ Pixiv

 制作過程のすべてもしくはその主要な部分にAI(これに類する技術を含みます。)を使用して生成したコンテンツまたは当該コンテンツに軽微な加工・修正を施したコンテンツ(はAI生成物とみなす)。

 

 Pixivルールが結局は「主要な部分とは何なのか」が主観的で曖昧なのに対し、Kindleは「スタート地点がAI生成がどうか」が全てで、スタート地点が手書き・手描きなら、その後何をしようが永久に手書き・手描き扱いになる。

 これは文化庁見解とは合致しない。このようなローカルルールを掲げたサービスはおそらく初と思われる。

 

 イラストで言えば、Kindleルールでは「最初の絵をt2iで作ると、その後どれだけ修正しようが永久にAI生成扱い」になる。これだけ見ると一見AIに不利そうだが、これは同時に「最初のラフを手で描けば、その後どれだけ修正しようが永久に手描き扱い」という事でもある。

 実際に作る立場として考えた場合、基準が曖昧すぎてそもそも何を証明すればいいのか分からないPixiv系ルールよりも対処は楽かもしれない。

 

https://kdp.amazon.co.jp/ja_JP/help/topic/G200672390