Nightshade、公開される

 2024/1/19、昨年3月にGlazeをリリースした「シカゴの研究チーム」が、第2の機械学習阻害ツールとなるNightshadeを公開。

 

 基本的な構造はGlazeと同じく、「Stable Diffusionそのものを内蔵(=Nightshade自体が無断学習によって作られている)」「それを使って元絵にゴミデータを合成」「ゴミデータは人間にとっても汚いノイズとして視認されるが、機械学習にとってはもっと邪魔」というもの。

 

 単に壊れたデータを学習させようとしていたGlazeとは異なり、Nightshadeは「描かれているものを別のオブジェクトに誤認させる」、例えば「犬が描かれた絵をAIにだけ猫だと誤認させる」ような画期的な攻撃効果があるとされていた。しかし、リリース後の検証では、BLIPやTaggerに類するツールは正常に動作しており、アナウンスされていたオブジェクト誤認効果は確認されていない。間違ったタグが付与されたゴミデータを学習すると学習モデルがゴミに近づくのは事実だが、それは今までもずっとそうであり、Nightshadeの新機能というわけではない。

 

 前段のGlazeからして、登場から10ヶ月以上経っているにも関わらず、本当に学習阻害効果があるのか未だに分からず、ただ「効果はあるはず」という一種の信仰だけが残っている。現状ではNightshadeも同様の扱いである。

 

 「シカゴの研究チーム」は、GlazeやNightshadeをサーバサイドで処理する事を想定しており、そのために有料サービスを立ち上げる方針であるらしい。

反AI主義者が流した代表的なデマ 20240113

「生成AIは無断学習で作られたデータを使っているので存在自体が違法である」

 

 著作権法第30条の4の規定により、学習は無断が原則かつ無断でも合法なので、法的にはそもそも「無断学習」という概念自体が存在しない。そのようにして作られた学習データが「違法な存在」という事もない。

 画像生成AIに対して凄まじい攻撃性を見せる反AIが、同じ構造の機械翻訳を平然と使っている事からもそれが分かる。

 もちろん「違法な存在になって欲しいと思っている人」はいる。

 

「画像生成AIの学習データは収集した画像を圧縮したものであり、Promptに応じてそれらを復元・合成する一種の検索エンジンである」

 

 そのような稚拙な設計では生成AIを完成させる事ができないので、今の形になったのである。

 

「無断学習が合法なのは法整備が追いついていないだけで、今後違法になる」

 

 現実は逆で、「各陣営が自分にとって都合のいい法解釈を乱立させて開発者が足を引っ張られる事が目に見えていたため、先手を打って2019年に30条の4を作り、機械学習を合法化しておいた」のである。

 これは、インターネット黎明期に、レコード会社や出版社の顔色を伺って規制だらけにした結果、国内で配信サービスが全く育たず、AppleGoogleに国単位で敗北したという過去の反省を踏まえている。

 もちろん「法整備が追いついていない事にしたい」と思っている人はいる。

 

「AIで生成した画像には著作権がないので転載・二次利用し放題」

 

 2023/6/19に文化庁が「創作意図と創作的寄与があればAI生成物にも著作権は認められる」と公式に発表し、この主張を否定している。

 デマの発生源は、2023/3/17にアメリカ合衆国著作権局が出した見解で、これはその後裁判沙汰になり、8/18に判決が出ている。この見解をもって「AI生成物には著作権がない」と主張するには以下の5つの問題がある。

 

 ①米国著作権局が独自に出した見解であり、米国内でもその判断が妥当かどうか(裁判していないので)不明。もちろん米国以外には全く関係がない。

 ②日本においては、著作権は作品を作った瞬間に自動的に発生するが、米国においては、著作権は作品を著作権局に登録した際に始めて発生する。そのため米国では、ある作品に著作権を与えるかどうかを、一行政機関が独断で決められる。制度に根本的な違いがある。

 ③Stephen ThalerのCreativity Machine裁判は、一般的にイメージされるような「生成AIを制御した人間が作品を登録しようとして拒否された」という事例ではなく、「生成AIというシステムそのものを著作権者として登録しようとして拒否された」という特殊な事例である。

 ④出力後の人的修正が一切無い、いわゆる「ポン出し」の話をしている。現実にはポン出しのデータがそのまま作品として公開される事はまず考えられない。

 ⑤ControlNetすら存在しない時代に発生した事件であり、技術的にあまりにも古い。

 

「AIはAIが生成したデータを再学習すると段々壊れていく」

 

 映画のシナリオとしてはよくありそうな話ではある。

 デマの発生源は、2023/6/12頃に掲載された「AIは誤ったデータを再学習する事で誤りが強化されていく」という記事。どちらかというと画像生成AIではなくLLMの話であり、そもそも原文からして「AIはAIが生成したデータを再学習すると壊れる」とは言っていない。「ゴミデータを学習すると学習モデル全体の質が下がっていく」と言っているだけである。それは当たり前の事で、改めて言及するような事でもない。

 これは「全員がデマを信じるとそのコミュニティではそれが事実になる」というデマのメカニズムに似ている。ゴミデータを学習して壊れるのはAIだけではない。人間も壊れる。

 

https://venturebeat.com/ai/the-ai-feedback-loop-researchers-warn-of-model-collapse-as-ai-trains-on-ai-generated-content/

アイビスペイント、何がしたいのか全く分からない

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 2024/1/9、タッチデバイス向けペイントソフトのアイビスペイントが、LCM系の高速生成技術を「お手本機能」として実装。「本当ならClip Studio Paintセルシスが先にやっていたはずの事を後発にやられた」という構図になった。

 

 問題はその後で、このニュースを聞いて反AIが焼きに来るのは当然分かっていたはずなのに、まるで何の覚悟も無かったかのように、翌1/10までに早々と機能の削除を決定。何がしたいのか全く分からない事態となった。

 

 なお、機能削除とは直接関係ない(という事になっている)が、「GPUパワーも帯域幅も馬鹿食いするリアルタイム生成処理をたったの月300円でサーバサイドで実行する」という基本設計は、常識では考えられないぐらい異常である。

 

https://ibispaint.com/information.jsp?newsID=88626344

Steam、AI容認に方針変更

 2024/1/10、2023/6/29にAI関連の作品をリジェクトして以降、基本的に「AI生成素材を使ったゲームを拒否している」と認識されていたSteamが、一転してAI生成素材の容認を発表。

 

 著作権法第30条4項により、無断学習が明確に合法となっている日本とは異なり、Valve社のあるアメリカでは「フェアユースの範囲内ならOK」という曖昧な基準で運用を行っており、これが経営判断上の足枷になっていた。

 

 この半年でGen-AI関連の法的情勢は大きく変わっており、昨年10~11月にかけて「我々は無断学習されたので被害者です」というフワッとしたエア被害者の訴訟が複数棄却されたほか、他人の著作権に抵触するデータは「生成できるのが悪い」のではなく「わざわざ生成・発表する奴が悪い」という評価に変わりつつある。

 

 Steamは別に反AIビジネスがやりたかったわけではなく、簡単に言えば「様子見していただけ」だったので、「問題が起きたら作った奴の責任、という契約が結べるのであれば問題ない」という結論になったとみられる。

 

 著名なゲーム開発ツールであるUnityを筆頭として、開発レベルは既に親AI方向に舵を切っており、これで開発と公開の足並みが揃った事になる。

 

https://store.steampowered.com/news/group/4145017/view/3862463747997849618

https://wintermutex.hatenablog.com/entry/2023/10/31/223231

https://wintermutex.hatenablog.com/entry/2023/11/23/092717

「戦犯ちゃん」ミーム化

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 2024/1/2、プルフェイド・リュパール(偏見で語る兵器bot)氏がTwitterにポストした、「捕らえた囚人をあれこれするエロゲのスクショ風画像」というAI生成の静止画1枚から、ネットミームが発生。史上初となる「AIイラストが固有の名前と人格を持ったキャラクターとして認知され、ミームとして大流行し、手描きのファンアートが作られまくる」事態となった。

 

 反AI主義者は「何であろうとAI生成なのでゴミ」という反応をする者と、「イラスト以外の部分に創作性があるので認めざるを得ない」という反応をする者とで真っ二つに分かれた。

 

 この絵はAI生成である事に加え、AIイラストとして見ても本当にただポン出ししただけの工夫のない内容だったため、AIなのか手描きなのか、あるいは画力が高いのか低いのか、といったような事はコンテンツそのものの訴求力とはあまり関係がない、という事実を証明する事にもなった。

反AI、マリオを生成してはしゃぐ

 2023/12/28、「屋根裏のラジャー」という映画の販促サイト内に組み込まれた、au主催の「MYイマジナリメーカー」なる画像生成サービスにおいて、反AIが意図的に既存著作物の類似画像を生成し、画像生成AIに対する攻撃材料にしようとするという行為が少し流行(※サイト自体は12/8からあった)。

 

 勘違いしやすいが、AI生成画像の著作権侵害責任は、サービスの運営者ではなく、マリオを出そうとし、また実際に出して、「マリオが出た」と言ってはしゃいでTwitterにポストしている人間が取る。マリオを学習する事は合法だが、意図的に類似画像を生成する事は違法行為だからである。文化庁が半年以上前からずっとそう言っている。

尾田栄一郎、反AIに焼かれる

 2023/12/22、漫画「ワンピース」等で知られる尾田栄一郎氏が、Suno-AI製のAI生成曲をTwitterで公開(厳密には集英社の担当者が公開)。コメント欄に国内外の反AIが殺到して焼かれる。

 

 「尾田先生をプロパガンダとして利用しようとしている勢力がいる」というディープステート的な陰謀論も登場。

 

 「世界中から嫌われた」という事になっているが、本当にそう言えるのかは不明。

 

https://twitter.com/Eiichiro_Staff/status/1737790262402064744