AI絵 事件簿

前提

 AIによる学習は、著作権法30条4項により原則的に常に無断かつ無断でも合法なので、「無断学習」「違法な学習」という概念自体が存在しない。「違法な使用」という概念はある。「何で学習しようが自由だが最終生成物で問題を起こせば犯罪」という事である。これは手描き絵でもAI絵でも変わらない。

 

2023/03/17 嘘①

 アメリカ合衆国著作権局が「テキストをAI画像生成モデルに与えて出力された画像は米国では著作権で保護されない」と発表。

 内容が検討されたのはPrompt一発出しが全てでControlNetすら無かったような石器時代の話なので、既に時代遅れと言わざるを得ないが、現在も反AI主義者が「AIで生成した絵には著作権が存在しない」と嘘をつく際の根拠として重要な役割を果たしている。

 

2023/04/27 木目事件 1日目

 木目百二が「クリエイターとAIの未来を考える会」理事としてAI規制を訴える。

 主張はありきたりだが、NHKニュースで放送されたせいで話題となる。

 

2023/04/28 木目事件 2日目

 木目百二自身がエロ同人で金を稼いでいた事、そのエロ同人の中に二次創作が禁止されている「ぼっち・ざ・ろっく!」があった事など、複数の理由から「そもそも著作権について何か物を言える立場の人間ではない」という事になり炎上。表舞台から姿を消す。

 「二次創作で利益を出している者がAI絵規制を訴えると自爆する」というロジックが認知される。

 

2023/05/01 jcom事件 1日目

 「jcomなる人物が萩pote(著名なイラストレータ)に対して収益画像付きで『素材ありがとう』的な煽りレスをした」という画像が拡散され、AI絵叩きの波が来る。

 jcomなる人物が発言すると同時にアカウントを消して逃亡していること、にも関わらず「バナナ生産農家」というアカウントが僅かな時間でスクリーンショットを撮っていること、jcomもバナナ生産農家も作られたばかりのいわゆる捨て垢であること、jcomなる人物の過去の活動履歴が全く見えて来ないこと等、不自然な点が目立ち、「架空の人物を用いた自作自演なのではないか」という指摘は当初よりあった。

 

2023/05/02 jcom事件 2日目・Pixiv 画風LoRA禁止

 jcom事件の盛り上がりに合わせ、Pixivが「特定のクリエイターの画風・作風を模倣した作品発表を、反復・継続して行うことで、当該のクリエイターの利益を不当に害すると当社が判断する行為」を規約で禁止。

 規約で禁止しなくても元々違法である。

 また「AIで」という条件が付いていないため、この条項は手描きでも引っかかる。

 

2023/05/03 jcom事件 3日目・嘘②

 jcomなる人物がアップロードしたFanboxの収益画像が、金額部分を改竄したフェイク画像だと判明。jcomなる人物は「反AI主義者の扇動を目的としてデザインされた架空の悪質な人物」であった。

 反AI主義者にとって非常に都合のいい人物であるため、架空の人物だと判明した後も「AIを使ってる奴はこういう奴ばかり」というサンプルとしてよく用いられる。

 この一件以降、反AI主義者はLoRAという技術が何なのか全く理解できなくなり、「LoRAは他人の画風をコピーするために作られた悪質な技術」という嘘をつき始める。

 

2023/05/07 Pixiv非公開デモ

 Pixivで過去絵を非公開にするムーブメントが生じる。

 直接の理由は「AIに学習されたくないから」とされていたが、実際には「AIを全面禁止しないPixivに対する反AI原理主義者による抗議デモ」という意味合いが強い。

 数日で収束。

 

2023/05/10~11 主要サービスのAI絵締め出し

 Fanbox、Fantia、Cien、DLsite等の主だったマネタイズサービスがAI絵の取引を実質的に停止。

 理由としてはおおよそ「既存のクリエイター様への影響を考慮」とされているが、サービス側から見ると「ゴミコンテンツを大量に送り付けられる事が単純に迷惑」という側面もある。

 これらの発表により5/1以降続いていた反AI的なムーブメントが急速に沈静化。

 一連の騒ぎを通して反AI主義者内の温度差が顕著となる。

 「一切の無断学習を許してはならない」「少しでもAIを使ったらその絵はAI絵」「全てのサービスからAI絵を締め出すべき」「合法なのは法律が間違っているだけで自分の考えの方が正しい」といった先鋭化した反AI原理主義者は、その高い攻撃性によりコミュニティ全体から徐々に浮き始める。

 「人物が手描きなら背景はAIでもOK」「背景を描くAIは綺麗で正しいAI、人物を描くAIは汚い悪いAI」とする人物至上主義者・背景軽視主義者の存在が可視化され、背景専門のイラストレータ等との間で軋轢が生じる。

 ほか「翻訳家の仕事を奪った機械翻訳は便利な道具として使っておいて、イラストにだけ拒否反応を示すなどという都合の良い話が通用するのか」「無断学習やAI生成物の販売に嫌悪感を示しているが、印刷代も頒布コストも存在しないDL販売で、権利者に無断で作ったエロ同人が利益を出し続けているのはダブルスタンダードではないのか」等、より範囲の広い根本的な議論も存在感を増す

 

2023/05/24 Adobe Generative Fill・AI絵境界問題

 Adobeが「Generative Fill(ジェネレーティブ塗り潰し)」を発表。技術的にはinpaint/outpaintそのもので、Abobeは「学習元がクリーン」と主張しているが実際には別にクリーンでも何でもない等、これが問題ないなら他のAIも問題ないと言わざるを得ない内容だが、5月初頭から暴れ回っていた反AI主義者がこの時だけは借りてきた猫のように大人しく、Adobe叩きは全く盛り上がらなかった。

 多数の人間が使っているAdobe Photoshopが強力なアシスト機能を見せてきた事で、当初より存在した「今後あらゆるツールにAIアシストが入る事が確実な現状において、何をどこまで使ったらその絵はAI絵という事になるのか」という「AI絵境界問題」が顕在化していく。

 

2023/05/29 さつきあい

 集英社が架空の人物「さつきあい」の写真集を発売。

 立場的に反AIに立ちそうな集英社が実行したという意外性と、「手の左右が逆」といった基本的な部分すら直せていない技術レベルの低さで話題となる。

 「だったら集英社の漫画も無断使用していいんですね」といういつもの奴が沸く。

 6/7に販売中止を発表。理由は発表されていないので不明。この状況下での発売だったので、集英社はクレーム対応はもちろん裁判も受けて立つ覚悟だと思われていたが、別にそんな事はなかった。

 反AI主義者的には「実在したモデル『浅倉唯』に酷似していたから権利侵害で販売中止になったのだ」という事になっているが、言うほど似ていない。

 

2023/05/30 petapi

 AI専門のマネタイズ支援サービス「petapi」がサービスイン。サービスそのものよりニュースリリース内の「LoRAを使うとその作成者にキックバックが発生する構造をそのうち実装する(※現時点で未実装)」という文言に反AI主義者が食いつく。

 食いつくと同時に「LoRAとは特定の絵柄を集中学習させることでその人の絵柄で無限に画像生成できる代物」「作家の絵柄などを狙い撃ちで画像生成AIで再現するためのもの」等の嘘をつき始める。彼らの認知では「LoRA=画風LoRA」なので、ひたすら画風LoRAにだけフォーカスしたズレた意見の表明が続く。主張の内容もLoRA固有の話ではなく、以前から無断学習全体に対して言っていた事とほぼ同じ。

 反AI主義者がLoRAが何なのか正しく理解しなくなった最大の原因はjcom事件なので、あの自作自演攻撃はかなり効果があったと言える。

 なおpetapiは後日別のニュースリリースで「作者本人が自身の画風のLoRAを作って売る事を想定していた」と話す。つまり食いついた反AI主義者だけでなく、petapi自身も「LoRA=画風LoRA」と考えており、実は当事者の中にLoRAが何なのか正しく理解している人間が存在しなかった。

 全体として反AI原理主義者にピーク時の勢いが感じられない。5月初頭の騒ぎの規模を10とすれば6か7といったところ。

 

2023/06/03 嘘②

 

 文化庁が出したpdf資料「AIと著作権の関係等について」が話題になる。既知の内容であり、おおよそこのページ冒頭の「前提」と同様の事が書かれている。

 反AI主義者の一部が「AI生成物のアップロード・販売はそれ自体が著作権法違反」と誤読して嘘をつき始める。

 

2023/06/06

 ゆず(日本のバンド)が6/21発売の新曲のジャケットにAI生成絵を採用。

 元々客ではない反AI主義者の間では「イラストレータの仕事を踏みにじった」としてゆずが加害者扱いになる。一方で本来の客である音楽ファンは気にしている様子がなく、かなりの温度差がある。

 「だったらゆずの楽曲も無断使用していいんですね」といういつもの奴が沸く。