反AI 2023年総括

2023/5/上 反AI誕生

 4/27の木目事件と5/1のjcom事件により、「イラスト系Gen-AIにのみ非常に強く反対する集団」の存在が急速に表面化。「反AI」「無断学習」といった新概念が誕生。「エロ同人で著作権を踏み倒してきた同人作家が著作権法を使って生成AIと戦おうとする」「自分が集中学習されたわけでもないのにイラスト界の代表者みたいな態度で喋ろうとする」という奇妙な状態が生まれ、これが現在まで続く。

 「無断学習は違法」「無断学習で作った学習データも違法」「学習データは画像を超圧縮したもの」「画像生成は格納された画像の切り貼り」「生成AIはAIと名乗っているがAIではない」「AIで生成した作品には著作権が発生しない」等のメジャーなデマはこの頃から全て存在した。

 

2023/5/下 反AIビジネス勃興

 

 Pixiv Fanbox、Fantia、Cien、DLsite、skebなど、同人作家の収入源として機能していたサービスが相次いでAI生成物の締め出しを発表。反AIビジネスの先鞭をつける。

 

2023/6 文化庁見解

 反AIが弁護士気取りで独自の法解釈を行い好き放題にデマを流しまくったため、デマを抑える目的で文化庁が公式見解を発表。「学習はいかなる場合でも合法」「生成物が既存の何かと類似していた場合は現行法で責任を取らせる」でほぼ話は終わった。

 終わったのだが、反AIの間ではこの見解は完全に無視されている。

 

2023/7 表現規制派と合流

 

 先鋭化した反AIの一部が、勝てそうな争点を求めて「生成AIは児童ポルノに見えるものを出力できるので規制すべき」と主張し始め、表現規制派と合流。11月には読売新聞も表現規制系記事を連投して後押し。その後も児童ポルノの話題は定期的に登場し、表現規制は反AIの主要な武器の1つとなった。

 当然ながらこの主張は手描きも直撃する。

 

2023/8 魔女狩り流行

 あらいずみるい事件を筆頭として、反AIが「その画像はAIで作ったのではないか」と難癖を付けて恫喝・誹謗中傷・ネットリンチに至る事例が多数発生。

 実際にAI絵だったり、本当は手描きだったり、結果は様々だが、そもそもAI生成だったからといって特に何か問題があるわけではない。

 その後、反AI全体が「どうでもいい小物とどうでもいい争点で口喧嘩する事に血道を上げ、本当に戦わねばならない相手とは戦わない、というか無視されるので戦えない」という状態になっていく。

 

2023/8 見解発表が流行

 

 「業界団体が生成AIに関する見解を発表する」という行為が流行。写真・新聞・音楽・小説業界など。完全に反AIそのままという感じのアホみたいな内容のものから、現実的な判断をしているものまで色々。中には「世界AI原則」というだいぶ図々しい名前を付けた物もある。

 

2023/10 反AIツイートのエンゲージメント増加

 

 この頃から反AIツイートのエンゲージメントが目立って増加。以前はよくて100Fav前後だったものが、300Fav程度は普通に出るようになり、物によっては1000Favを越えるケースも出てきた。反AIは「稼げるジャンル」になった。

 ただエンゲージメントは「反AIだけが上がった」というよりAI関連全体が上がっているようにも見えるので、単純に「反AIが増えた」と言えるかどうかは何とも言えない。

 

2023/9~11 被害者とエア被害者の明暗分かれる

 私刑・ファンネル・嫌がらせ等によらない法的解決の第一号になったビビッドアーミー事件が和解で終了する一方、米国では2月頃から引っ張っていた「自分は無断学習されたので被害者です」というフワフワしたスタンスの訴訟が「被害者と被害内容をはっきりさせろ」という正論で粉砕され棄却。

 集中学習を受けた一線級のイラストレータが類似のイラストを生成されるケースと、その域にない木っ端がAI学習罪だけを頼りに被害者のポジションを取ろうとするケースでは、だいぶ話が違うという結果になった。

レベルファイブ、開発ワークフローに生成AIを活用

 2023/12/11、レベルファイブ(ゲーム開発会社)が、内閣府主催の「AI時代の知的財産権検討会」において、ゲーム開発のワークフローに生成AIを活用している、というか、だいぶ前から既にしていた、と発表。

 

 主な用途は、ブレスト、仮素材、背景素材、アップスケール等とのこと。

 

 典型的な反AI主義者の言動として、「生成AIを使っていると信用できない人物だと見なされ、商業の仕事ができなくなる」という物があったが、この一件によりだいぶ説得力が落ちてしまった。

 

 現状、生成AI使用のリスクは、著作権云々ではなく「反AI主義者に嫌がらせを受けること」になってしまったので、表立ってAI使用をアピールするケースは減り、ワークフローの見えない部分に黙って組み込む事がデフォルトになっていくと思われる(レベルファイブは喋ってしまったが)。

 

https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2312/12/news175.html

米国著作権局、AI作品のリジェクト3件目

 2023/12/11、米国著作権局が、Ankit Sahni氏が生成AIで作った作品「SURYAST」について、著作物登録をリジェクト。自分で撮ってきた写真にゴッホの「星降る夜」をreferenceで混ぜたような物であるらしい。

 

 米国著作権局の姿勢は一貫して反AIであり、その方針は今も変わらない。米国は日本とは異なり、著作権が「作品を作った時点で自動的に発生する」のではなく、「著作権局に登録することで初めて発生する」というシステムになっているので、このような1組織による水際作戦が可能となっている。

 

 これらの判断は米国著作権局独自の判断であり、裁判で争ったわけではないのて、認めない事が合法なのかどうかは不明。

 

https://www.natlawreview.com/article/copyright-office-review-board-denies-ai-human-authorship-claim-third-time

EU AI Act、AI学習罪・使用罪いずれも不成立

 2023/12/8、EUが、以前から進めていたAI規制法案「EU AI Act」について、大筋で合意を得たと発表。

 

 この法案は反AI主義者の「海外では規制が進んでいる」系ストーリーの筆頭案件で、彼らの中では「無断学習はいずれ世界レベルで規制を受け全面的に禁止される」とか「生成AIはいずれ免許制になり選ばれた人間しか使えなくなる」という事になっていた。実際2023/4頃のEUは「あらゆるAIに学習した全著作物のリストと訓練方法を開示させる」と息巻いており、反AI主義者最大の敵であるStable DiffusionやMidjourneyもその対象に入っていた。

 

 しかし現実はそうならなかった。そもそもEUがAI Actを画策したのは「米国製の強力なAIだけを規制して足を引っ張りつつ、EU圏内のAIは無規制で開発させて米国に追い付く」ためである。その目的を達成できるよう試行錯誤した結果、学習に関する煩雑な事務処理を強制されるレベル3(High Risk)以上に認定されたのは、OpenAIやGoogleが擁する最先端のAIだけに留まり、それ以外の一般的なAIは全てレベル2(Limited Risk)になった。レベル2に対して要求されるのは、生成物にAI使用フラグを付与することだけである。しかもこれは企業がクローズドソースでAIサービスを運営した場合にのみ適用され、個人やオープンソースAIには適用されない。

 

 「無断学習」ことAI学習罪については、言及すらされなかった。EUは「学習する前に必ず許可を取れ」とは言っていないし、「無許可で学習された者は一律で被害者」とも言っていないし、「無断学習モデルを使う奴は泥棒・窃盗犯」とも言っていない。もちろん「言葉には著作権がないので翻訳AIは許されるがイラストは許されない」とも言ってない。

 

https://www.euractiv.com/section/artificial-intelligence/news/ai-act-eu-policymakers-nail-down-rules-on-ai-models-butt-heads-on-law-enforcement/

中国司法、AI生成画像に著作権を認定

 2023/12/1、北京インターネット法院において、「AIによって生成された画像をウォーターマークを削除した上で自作として転載」した人物が敗訴。その過程でAIによって生成された画像にも著作権が発生する事が認定された。

 

 類似のケースに対する判断は各国バラバラ。

 日本では、文化庁が2023/6に「ポン出し以外は発生し得る」という見解を示しているが、裁判が起きないので本当に発生するのかどうかは不明。

 アメリカでは、著作権局が2023/9/5に登録を拒否し、実質的に「発生しない」という判断を行ったが、これは裁判を経て決定されたわけではなく、著作権局が独断で実行しただけなので、本当に発生しないのかどうかは不明。

 その状況で中国においては「発生する」と裁判所が認定した。

 

 なお、反AI主義者は以前より「AI生成物には一切の著作権が発生しない」というデマを流しているが、これは文化庁の見解とも米国著作権局の見解とも中国立法府の判断とも異なる。

 

https://www.globaltimes.cn/page/202311/1302805.shtml

https://note.com/jack_almania/n/neff7ad916c29

読売新聞社、反AI化

 2023/11/12~12/2にかけて、読売新聞社が反AIキャンペーンを張り、表現規制系記事を連続して掲載。

 新聞社は以前からAIへの敵対スタンスを明らかにしていたが、ここまではっきりした攻撃行動に出るのはおそらく初。「AIを攻撃するために表現規制を利用する」というパターンも、反AI主義者が2023/5頃から個別に実行していたものの、新聞社がやるのはおそらく初。

 

 表現規制に手を出す以上は、AIは取っ掛かりに過ぎず、「AI規制に成功したら次は手描き」という事だが、そのせいで反AI主義者の間でもこれをAI叩きに利用するかどうかで温度差が出ている。

 全体的な印象として、半年以上前から生き残っているような捨て垢の古参反AIは、「AIを叩けるなら後はどうなってもいい」という態度で、表現規制にも迷いなく賛同している。

 

2023/11/12

 

https://www.yomiuri.co.jp/national/20231112-OYT1T50000/

【独自】生成AIで児童の性的画像、国内サイトに大量投稿…推計で毎月3000点以上

 

 「画像生成AIで作ったとみられる児童の性的画像」という矛盾した記載(法的には実在するものしか児童と呼べない)で始まるほか、「米国では規制されている」「ヨーロッパでは違法になる」など記事中に憶測や嘘が多い。

 この記事は児ポ法の主題である実在の被害者の救済には言及がない。

 実在しないキャラクターのポルノを主観で規制している国は現時点で4ヵ国しかないが、いずれも「実在児童の被害者を減らす効果が全く出ないうえに、架空のポルノの摘発に時間を取られて実在児童に時間を割けなくなる」という本末転倒な現象を起こしている。

 

2023/11/19

 

https://www.yomiuri.co.jp/election/yoron-chosa/20231119-OYT1T50125/

生成AIの偽動画対策「必要」75%、法律で「規制する必要あり」80%…読売世論調査

 

 この手のアンケートは聞き方次第でどうとでも回答を誘導できる。「被害を訴えている人がいますが、規制した方がいいと思いますか」と聞けば、よく分かっていない人間ほど「規制すべき」と答える。

 

2023/12/02

 

https://www.yomiuri.co.jp/national/20231201-OYT1T50210/

リアルな生成AI性的画像が氾濫、実在の被害児童と区別困難…削除要請や捜査にも支障

 

 最後に出てくる大学教授が「AIによる児童の性的画像は、子どもを性的対象にしても構わないという誤った考え方を広める」と言っている。この理屈だと、手描きのイラストはもちろん、文章・音声などあらゆる物が規制に引っかかるので、実際のところAI生成かどうかはどうでもよく、本命は表現規制そのものだという事がよく分かる。冒頭でも書いたが「AI規制に成功したら次は手描き」という事である。

「絵柄割れ厨」一瞬だけ流行る

 2023/11/23、「絵柄割れ厨」という蔑称が反AI主義者の間で一瞬だけ流行。

 

 無断学習ことAI学習罪は、「全ての機械学習を悪として全員を被害者ポジションに置く(エア被害者)」というロジックだが、これが「絵柄割れ厨」だと「絵柄をコピーする価値があると思われているトップクラスのイラストレータだけが被害者で、その域に達していない大多数の人々はそもそも被害者ではない」という事実を認めた形になってしまうので、むしろ攻撃力が下がっている。

 

 また、著作権を使ってAIを攻撃しようとすると、大体全部そのまま二次創作を直撃してしまうのだが、この例も「版権割れ厨」と言われてしまうと反論の余地がない。

 

 色々と滑っている印象だが、エコーチェンバー内での内輪受けは非常に良かった。